起業すること自体は単なる手段であって、何も難しいことはありません。人生後半で起業する目的は、自分に与えられた残り少ない時間の中で、自分がやりたいことを仕事として愉しみながら自分らしく生きる、という時間を得ることに尽きると思います。言い換えると、より豊かな自分の未来をイメージして実現していくこと。
そのためには、自分の生き方を変える必要があります。これ、口で言うのは簡単なのですが、長年慣れ親しんだ自分の生活習慣や視点はなかなかすぐには変えられないものです。これまで会社員だった人は、調整、会議、事務作業に多くの時間を取られていたと思います。主婦の方だと、家事や育児に1日の大半の時間を使っていたと思います。まず、その「時間の使い方」を根本的に変えることから始まります。
自分にとって本当は何が大事なことなのか、他人の都合にばかり左右されていないか、という視点で時間の使い方を見つめ直すことが第一歩です。優先順位の基準が、外部からの評価ではなくすべて自分の価値観になるので、意外に難しいのも事実ですが、組織の価値観ではなく自分に素直になれるというのは起業したからこそなのです。
スローな経営スタンスから始めよう
小さな会社を経営しているといろいろなジレンマに遭遇します。起業して仕事が回りはじめると、技術面、営業面、経営面でゼネラリストな自分とスペシャリストな自分という二つの帽子を使い分けないと会社が上手く回らないことに気がつくと思います。
例えば、大きな仕事の引き合いが来て、見積りの段階で先方を訪問して話を聞いてみると発注要件が固まっておらず、延々と打合せに付き合わされるということも少なくありません。営業的には「はい、喜んで!」と言いたいところですが、社員が自分だけの会社で経済的な面や使える時間を考えると「おいおい。いつまで手弁当なの?」という思いも湧いてきて自分自身でもジレンマを感じます。
そんな時はジレンマと戦わないことが正解。ジレンマを感じたら、とっとと切り捨てることが大切だと思います。大きな案件を受注してトップギアで走り抜けていくことに魅力を感じないわけではないですが、できたばかりの会社としては、小さくても確実に儲かる仕事を削ってまでやるものではないのです。仕事の規模は小さくても身の丈に合った案件をいくつか確実にこなしていくことを優先すべきです。
特にスタート直後は、低速ギアでスローな経営を目指すことで結果的に二つの帽子を上手に使い分けられるようになると思います。小さな会社でも経営者となると多くの「やるべきこと」があります。トレーニング理論で言うところの「漸進性の原則」に従って、自社の体力を見極めながら意思決定していくことまずは体得する。そして、より人間らしく思えるような自分に素直な時間の使い方をしていく、ということが堅牢で持続性のある会社を造っていく基本だと思います。
- 書名
- 会社をつくれば自由になれる
- 出版社
- インプレス/ミシマ社
- 著者名
- 竹田茂
- 単行本
- 232ページ
- 価格
- 1,600円(+税)
- ISBN
- 4295003026
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