7

零細企業経営に不可欠な「優先順位」

起業する決断ができた人なら、それなりにプロとして得意分野/技術を持っていると思いますが、一方で経営者として会計や税務、営業マンとしての次の仕事確保のためのフットワークも必要とされます。一人でのスタートですから、何でもかんでも自分の手でやろうとすると、遅かれ早かれパンクします。事業を継続していくために不可欠なことは、自分なりの「優先順位」を設定するということだと思います。

起業した瞬間に、全て自分で決断するという状況に入るわけですが、まずは事務所をはじめとした働く環境作り、会社案内や名刺、ホームページなど、いろいろと細かい仕事をしなければなりません。初めての起業ですから、自分なりに考えて工夫しながら、自分らしい状態に整えていくのは楽しいものです。居住空間とは別の自己表現の場ですからね。

そんなことをやりつつも、収入確保(営業活動)を同時にやっていかなければ、小さな資金でのスタートでもあり、笑顔もだんだん引きつってきます。42歳から54歳くらいで起業する人だと、起業前にある程度はスタート直後の受注案件は確保しつつ、起業の最終決断をしていると思いますが、それはあくまでも単発的なビジネス案件。事業として長期的に継続していけるかどうかがとても重要なのですが、小規模事業者ゆえの落とし穴も少なくありません。

起業する決断ができた人なら、それなりにプロとして得意分野/技術を持っていると思いますが、一方で経営者として会計や税務、営業マンとしての次の仕事確保のためのフットワークも必要とされます。一人でのスタートですから、何でもかんでも自分の手でやろうとすると、遅かれ早かれパンクします。事業を継続していくために不可欠なことは、自分なりの「優先順位」を設定するということだと思います。

市販のビジネス書やビジネススクールとはかなり逆説的な話かもしれませんが、僕なりに考え実践してきた優先順位は大まかには下記の3点です。

・優先順位1:苦痛なことは避ける
・優先順位2:勝手に売れる状態を作る
・優先順位3:世の中の役に立つ

それぞれについて、簡単に説明してみます。

「苦痛なことは避ける」

これは、人間が継続的に行動していくために最も重要なことだと思います。現実には、あまり好きではない、あるいは得意とは言えない仕事も、請けたりかかわったりせざるを得なくなります。技術者であっても、会社には会計業務が必要です。これが小さな会社を経営する上での難しさです。好きではない、得意とは言えない仕事は、誰でも嫌だし苦痛を感じるものです。この部分をどう解決していくかです。

会社というのは、小規模だろうが大規模だろうが、開発/生産、営業、財務会計の機能がバランス良く回っていないと継続しません。その解決策のために知恵を絞り、固定費を最適化しながら回す。そして、経営環境や事業の状況の変化に対して、柔軟に軌道修正を繰り返しながら最適化を図る、というところが会社経営の「肝」じゃないかと思います。

自分の場合、細かい事務処理や伝票や書類の整理整頓が苦手(苦痛を感じる)です。そこで、起業当初から税務、経理、社会保険関連の法務などは、すべてを外部の法律会計事務所に委託しました。当社からは、使った分の領収書やクレジットカードの控えや明細、請求書(売上)などをそのまま会計事務所に宅配便で送ってしまいます。委託先には、月々の記帳、四半期ごとの決算処理、法人税の確定申告、社会保険等の手続き、その税務処理などの全てを任せています。さらに、法務窓口(弁護士料金は別)、登記関係、株主総会、会計監査アドバイス等もお願いしています。これらを全部まとめて月5万円ほどの経費です。会社の規模も小さいですし、取引先も多くはないので、総務要員として人を採用するよりも、外部のプロに委託したほうが明らかに安定的で合理的です。

苦痛を感じる仕事は避けながら、自分がやりたい仕事に集中して会社を回していくというのは、小規模な企業経営の鉄則じゃないかと思います。

「勝手に売れる状態をつくる」

自分の好きな仕事だけで会社を持続させていくためには、「勝手に売れる状態(商品やサービス)をつくる」ということに知恵を絞らなければなりません。一般的に45歳くらいを過ぎると体力は下り坂となり、労働集約型の仕事では持続性という点で無理が出てきます。そういう意味でもベースとなる継続的な事業や勝手に売れる商品やサービスを作ることが、42-54的起業の命題と言えると思います。

その商品やサービスが「わかりやすい」ものであることは、勝手に売れるために最も基本的な要素です。次に、その仕事や商品やサービスの価値が(市場に)伝わっていく仕組みができているか。仕事をしている人のパーソナル・ブランドでも、商品/サービス自体のブランドでも良いのですが、小さなブランドを繰り返し積み上げていくことが重要だと思っています。

いわゆる「ブランディング」という感じで難しく考える必要はありません。小規模事業者が食えるだけのニッチな市場の範囲で一番になれば良いのです。

最後に少し手間をかけて考えるのが「パッケージ化」ですね。わかりやすくて「いいね!」がどんどんと伝わっていくような商品やサービスができていても、パッケージングが悪いと売るときにいちいち「包装する手間」がかかります。例えば、ユーザーに合わせたちょっとしたカスタマイズなどです。ここをきっちりやっておかないと、買ってくれるはずの人の買う気が削がれたりするので気をつけたいところですね。

「世の中の役に立つ」

人生、ある程度長く生きていれば、何か社会の役に立つことをやってみたいという思いはあると思います。買ってくれた人が喜んだり感謝してくれるということも、事業継続の大きな原動力になると思います。自分の人生をかけて起業するわけですから、その仕事の質を社会に問うという視点にはとても大きな意味があり、仕事の深みが増すと思います。

以下、簡単にまとめます。

一人起業は自由度が高い半面、広範囲に仕事をこなさないといけない面があります。しかし、人間には得手不得手や限界というものがあり、小規模だからこそ思い切って切り捨てるスマートさが必要だということだと思います。

自分なりに優先順位を決めて取り組まないと、結果的に無駄な時間をダラダラと過ごすということにもなりかねません。会社を細々と持続させるためには苦痛なことはできるだけ避け、勝手に売れる状態をつくる。そしてなんらかの形で、世の中の役に立つような結果を生み出していくことを目指す。こうしたことが持続のための「力」となっていくのではないかと思っています。

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
Amazonで購入するKindle版を購入する