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大企業は学校である

大企業のもっとも重要な仕事は社員教育である。つまり大企業は実は「学校」なのだ。それも大学院の上にある、現場重視のレベルの高い学校なのである。つまり大企業で仕事をするということは学ぶことに他ならない。

会社としての活動で必要なヒト・モノ・カネ・時間という資産の中で、もっとも投資対効果(ROI)が低いのはヒトである。その気になるためのインセンティブがないとなかなか動かない。へんな仕事を与えると文句を言う。給料を下げると大騒ぎだし、上げても感謝されるのは1カ月だ。というわけで、一般に経営が順調な場合は、ヒト以外の資産がヒトに代わってとても重要な仕事をしてくれている場合がほとんど、ということになる。それもある程度の閾値を超えたスケール(規模)があると、ほぼ自動的に儲かる。数学(「すうじ」でもあり「すうがく」でもある)自体が仕事をし始めるのである。いわゆる「ビジネスモデル」だ。

大企業の財産はざっくり言うと3つあると考える。巨大なキャッシュフロー、圧倒的なマーケティングパワー、そしてブランドエクイティである。これに知的財産(ライセンス等)が加われば鬼に金棒だ。重要なのは「これらが勝手に仕事をしてくれている」という点にある。そうなると、ごく一部の優秀な社員以外は仕事をしなくてもよくなる。

実際「猛烈に忙しいけど、よく考えたら働いている時間の80%以上が社内調整」という社員は多いはずだ。ある業務を遂行するために打ち合わせをしていたはずなのに、プロトコル(手続き)を合わせること自体が目的化してしまうのだ。当然アウトプット(エンドユーザーに対するサービス出力)が少なくなるので仕事はあまり面白くない、という悪循環になる。しかし大企業の社員はそれでいいのである。なにしろ前述したようにヒトが仕事をしているわけではないのだから。

さて、零細企業の経営者がもっとも負担したくない、できれば流動化したいのが教育コストだ。一般に「教育」は長期間に渡る投資活動であり、かつ回収の見込みが立たないことを前提にしている(回収の見込みが立っている教育は「教育産業」という似て非なる名称になる)。大企業とは異なり、1人1人の社員の能力の差が経営の結果として露骨に出てしまうので、妙な人材を1人採用しただけで取り返しのつかないことになる。いきおい経営者は「スタッフのその時点でのスキル」に対して対価を払うことで成果を出したいと考える。

そうなると社員を採用して教育するよりは、能力の高いフリーエージェント(インディペンデントコントラクター)を活用しようとするはずだ。フリーエージェントはすでに別の場所でさんざん教育を受けてきている。その成果としてのスキルを時価で仕入れるのが結果的にはもっともROIが高い。大企業が(同じようなことができる部署があるにも関わらず)ある特殊な能力を持っている中小企業と付き合うのも似たような理由だろう。実は、42-54的なビジネスの存在価値は、こういったところにもある。

というわけで、この2つの話を結合すると、「大企業の(ヒトに対する)もっとも重要な仕事は社員教育である」という結論になる。大企業は実は「学校」なのだ。それも大学院の上にある、現場重視のレベルの高い学校なのである。つまり大企業で仕事をするということは学ぶことに他ならない。

今からでも遅くはない。自分が所属する会社を「学校」に見立ててみよう。そこで何が学べるか、あるいは学べたかを真摯に考えてみよう。「たくさん学んだ」ヒトは独立して、自分が所属していた会社になんらかの形で恩返ししよう。10年、20年と長期間大企業に所属していて「いろんなことを学んだという実感がない」というヒトは独立しても失敗するはずなので、その会社に生涯しがみついたほうがよい。そして、会社がなんとかしてくれるかもしれないことに期待しよう。

 

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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