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人生をクラウド化、オンデマンド化する

42/54的な生き方は、おそらくは富裕層のそれではありません。身の丈に合った生き方とでも言いますか、質素ではあるけれど貧乏くさくない、という状態を目指したいものです。そのためには、モノを所有するということについて、ちょっと考え方を変える必要があるかもしれません。

42/54的な生き方は、おそらくは富裕層のそれではありません。身の丈に合った生き方とでも言いますか、質素ではあるけれど貧乏くさくない、という状態を目指したいものです。

収入(売上)はなかなか思い通りにいかないものですが、支出はコントロールできます。買わなくてよいものまで買っていないか、すでに持っているものであっても所有していることによって余計なコスト(固定資産税や車検費用などが好例)が発生していないか、持っているモノがなんらかの枷(かせ)になっていないか、いつもさらにコストダウンできる余地はないかを検討しているか、という視点はとても重要です。逆に、必要なものにはちゃんと投資する、という視点もですが。

私は起業してから、自宅とオフィスのどちらもいくつかの事情で何度かの引っ越しを経験しました。結果、身の回りのモノを激減させることができました。現在、御殿場のアパートに住んで、インターネットで仕事をしつつ、富士山麓で小さなレストランを営んでいますが、「モノを極力減らしたシンプルなスタイル」で生活していたのが良かったと実感しています。

では、何をどう減らしたのか、それで問題はないのか、何を諦めたのか、といったことを振り返ってみようと思います。根底にある基本的な考え方は「所有より利用」です。カメラのように軽くて簡単に買ったり売ったりできるものはまだ良いのですが、問題はそうではないものです。代表的なのが住まいや白物家電、それにクルマなどです。

富士山麓に移る直前は、横浜・中華街の近くにワンルームマンションを自宅兼事務所として借りていました。既に自宅マンションは賃貸に出しており、持ち物は最小限でした。冷蔵庫を持っていなかったので、交差点の筋向いの「コンビニが冷蔵庫」でした。冷蔵庫と言ってもどうせビールと氷くらいですし、食事はほぼ外食です。

こんな状態だったので、引っ越しもレンタカーの2トントラックでさえ大き過ぎるくらいで1人で楽勝。壊れ物だけ自分のクルマで運んでおいて、あとは1日かからず完了でした。

ここに至るまでに何を捨ててきたかというと、例えばオーディオ。音楽もオーディオも昔から好きでしたし、スピーカーを何台も自作するほどだったのですが、店で使いそうな一部の機器を残してほとんどのモノを処分しました。リスニングルームでじっくり音楽を聴くなんてことは、1年のうち数時間あるかないかである、ということに気付いてしまったのです(もちろん、そのために働いているという人もいると思います。あくまで私の場合)。

CD/DVDもブックオフに来てもらって書籍と一緒に大量処分。まず聴かないCD、もう見ないと思われるDVD、読むかどうかというような本はすべて処分しました。ほかに音楽関連では、40年モノのアップライトピアノや安物のギター、デジタルドラムなどの楽器も処分。また、趣味方面では、魚釣りの道具や草野球の道具など、時間が取れなくなって遠ざかってしまったものをかなり捨てました。

ソファや食卓のようなリビングの家具もすべて処分しました。値打ちものの家具でもないし、たいして愛着があるわけでもありません。ソファなんかはかなりくたびれていました。何より音楽同様に、リビングでゆったり寛ぐ時間なんてものは、実は人生においてほとんどない、ということに気付いたのです(これも私の人生の場合ですが)。

御殿場に会社名義で借りたアパートは、単身者向けの家具付きウイークリーマンション。備え付けの家具は、エアコン、壁にくくり付けのテーブル(折り畳み可)、カーテン、イス2脚、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジなど。

電子レンジも冷蔵庫も、これまで使っていなかったくらいなので無くてもよいのですが、せっかく備え付けてあるのと、田舎のことゆえ近所にうまいカクテルを作ってくれるバーなど望むべくもないことから、冷蔵庫に氷と炭酸水くらいは常備することにしました。

私の場合、さまざまな事情で自宅マンションを賃貸に出し、一人でワンルームマンションやアパートを借りているわけですが、このような経験をする中で自宅あるいは持ち家というものについてよく考えることができました。

ローン返済は大変ですし、ローンがないとしても持ち家には固定資産税がかかります。また、子どもの独立や親の介護など、人生のステージにおいて必要となる自宅のスペックは変化します。多くの場合、「大きめ」を念頭に物件を検討するのではないでしょうか。30年ものローンであれば、金利にもよりますが物件価格の倍ほどのお金を払うのです。これは、大変な無駄だと思います。

また、勤務地や客先などは、自宅の場所を斟酌してはくれないわけで、仕事の状況に合った住まいという観点で考えると、どこかに家を買ってしまうこととそこに縛られてしまうことの不自由さが見えてくると思います。

もうひとつ、田舎で不可欠なのがクルマです。クルマがない生活はあり得ないのですが、これも所有するのはやめました。30歳くらいのときに惚れ込んで60回ローンで買ったイタリアのクルマに21年乗っていたのですが、もう惚れ込めるクルマはなくなってしまった、クルマをいじったりする時間もとれなくなってきた、などの理由で22年目の車検を機に国産車のリースに切り替えました。

月に数万円のリース代は会社の経費です。会社名義で購入することもできますが、減価償却対象になったりして、いろいろ面倒くさいということもあります。リースの良いところは、通常想定されるメンテ費用や税金等が含まれてのリース料金であり、それを毎月定額の経費にできる、ということです。「5月の連休明け、忘れたころに自動車税」なんてこともなくなりましたし、車検費用も考慮する必要はありません。クルマこそ(惚れ込んだクルマがあれば別ですが)所有より利用だと実感しています。

このようなスタイルは、ITでいうところの「クラウド」の概念に近いものがあります。例えば、手元のパソコンにデータを保管するのではなくて「Google Drive」のようなインターネット上のサーバーに保管する。あるいは、パソコンで動作するメールソフトではなくて「Gmail」のようなWebメールを使う、というような考え方です。

この基本的な考え方は、42/54的な生活にとても良くマッチすると思います。いわば「人生のクラウド化」。こうしたクラウド化は、身軽さを実現し余計なことに煩わされないためには大事な考え方のひとつだと思います。もちろん、人によって何を捨てられるか、何を大事に思うか、という価値観や尺度は異なるので、あくまで私のクラウド化の例です。

先日、42/54的な生き方をされているなぁ、と感じられる方とお話する機会がありましたが、その人は「モノを買わなくなった。本当に必要になってから買うようになった」と言っていました。私は人生のクラウド化と思っていたのですが、その人はさらに「オンデマンド化」と表現していました。クラウド&オンデマンドというのは、IT的なトレンドというだけでなく、まさに42/54的な考え方でもあると思います。

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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