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仕事の本質的価値は言語化しにくいところに存在する

一見すると「それって余計な仕事なんじゃなかろうか」という部分に仕事の本質的な価値がある。機械やシステムには代替できない価値がある。

すでに旧聞に属する話題なのだが、オックスフォード大学准教授というそれなり(?)の権威による「(人工知能=機械学習によって)10年後にこの仕事はなくなっているだろう」という予測はけっこうな騒動にはなった。

THE FUTURE OF EMPLOYMENT
HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?

消えると予言された仕事の種類を精査したり、論文自体の信憑性を検証することにあまり意味があるとは思えないが、「クリエイティブでない仕事はなくなる」というこの論文の指摘は、「仕事ってそもそも何?」ということを改めて考えさせる良いきっかけになったことは確かだ。

どうしても私たちは「仕事=量の関数」だと考えてしまう。つまり、こなした作業の総量を「仕事」だと勘違いしやすい。そういう側面が存在するのは確かだが、仕事にはもうひとつの重要な成分がある。それは一言でいえば「感情的な印象価値」だ。

求人広告などは作業内容に対してどの程度のフィーになるかということが表現されているケースが多いこともあり、私たちは仕事の主成分=作業である、と誤解してしまう。しかし、私たちが本当に求めている仕事、やってほしい仕事はその大半が「感情以外では表現しにくい価値」であることは、皆が体感しているところだろう。

要するに、仕事の大半は「感情労働」なのだ。同じ仕事でもAさんが笑顔とともに気持ちよくやってくれるならそのまま残したいが、Bさんのやりかたならさっさと自動化してしまえ、ということである。つまり、最終的には個々のパーソナリティに帰着する。「同一労働・同一賃金」など机上の空論も甚だしいことこの上ない。

感情が割り込む余地がそれなりに大きいと思われる仕事が消滅することはないし、感情的操作で大きな価値を付加できる作業なら、ロボットに一部を代替させたとしてもその作業自体はニーズが発生し続けるだろう。

この論文のように、残る/残らないの判断基準を「クリエイティブか否か」に求めるのは間違いだ(そもそも何を以てクリエイティブと称するのかがよくわからない)。言語化しにくいところ、プログラミング困難な部分に仕事の本質的価値が潜んでいると考えるほうが妥当だと思う。

確かに駅の改札からは駅員が消えた。自動改札という高機能な「ロボット」が完成したことに加え、「感情を割り込ませることが難しい(=必要としない)仕事」だという2点が消えた理由だろう。ただし、ここで必要な議論は「切符を切るという仕事がなくなってしまった」ことではなく、「そんな高機能なロボットを作る必要はあったのか」ということかもしれない。

不正乗車を防ぐことが目的なら、改札そのものを廃止し、センサーネットワークと個々の(切符に埋め込まれた)ICタグ(ビーコン)を連結させるだけで、十分目的を達成することができる。

つまり、本来「改札は本当に必要なのか?」という仮説をベースにした制度設計の新デザインにアタマを使うべきであって、人と同じ動作をロボットに代替させるという力技(ちからわざ)が許されるほど世の中に(資源的な)余裕はあるのだろうか、という点のほうがむしろ気になる。制度設計で実現される品質を精度の高いハードウエアに求めるのはコストが合わないに決まっている。

現実的な話に戻ると、どの仕事が残る/残らないなどという近未来の話よりは、「この契約は持続するかしないか」という来月のハナシのほうがよほど切実である。実はここでも、言語化されていない価値や論理的に合意している内容以外の部分がその契約の継続・中止に影響する。

例えば、フリーエージェントへの業務委託において、次期も彼あるいは彼女と契約しようと思うきっかけになるのは「契約外の業務」に対する評価であることが多い。一般に、「契約」とは物理量としての仕事とそれに見合う妥当なフィーを交換する行為に過ぎないし、受発注者のそれぞれになんの問題も瑕疵もなければ論理的にはこれで正しい。

ところが、契約の範囲内においては良い仕事を納品してくれているという意味では同じにもかかわらず、契約が継続する人としない人がいる。契約を継続したいと思うフリーエージェントからは契約外の提案や納品物が出てくることが多い、という特徴があるのだ。望外の提案や実績こそが契約の継続になる。これはフリーエージェントの部分を「会社」に置き換えても同じことが言える。

契約通りの業務の納品は契約の継続にはつながらず、言語化・明文化されていない価値の提供が契約の継続につながる、という話しと、感情が割り込む余地が多い仕事は残るだろう、という話しは別の話題なのだが、「余計だと思っていた部分にこそ主成分が存在する」という共通点があるのだ。

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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