『ある愛の詩(Love Story)』は、金持ち坊ちゃんと貧乏な女性の悲しい結婚とその破局を描いたアメリカ映画だ(1970年公開)。この映画に登場する大変有名なセリフが「愛とは決して後悔しないこと(Love means never having to say you’re sorry)」(YouTubeの動画へ)である。
当時小学生のガキだった筆者は、女の子のスカートをめくってパンツが見えたといっては大騒ぎしている状況だったこともあり「愛とは後悔しないこと」と言われてもまったくもって意味不明だったわけだが、スカートをめくっても決して後悔しなかったのも事実なので、これも小学生なりの愛のカタチだったのである。実際、私の被害に遭ったのは大好きだった松岡さんという女の子だが、彼女の転校と同時に私の初恋はあっさり終了した。しかしこのトシになっても、今どこで何をしているかが多少気になったりすることがあるあたりが男が永遠に子供である証拠かもしれぬ。
紹介するのも気恥ずかしくなるくらいクサい映画なのと、この一人歩きしてしまった邦訳が果たして正しいニュアンスを伝えているのだろうか、という疑問は残るのだが、「決して後悔しないこと」という箇所はそのまま仕事に適用できる。つまり「仕事とは決して後悔しないこと」なのである。なぜそう断言できるのかというと、自分自身が毎日のように後悔しているからだ。もう間違いないのである。
筆者には自分自身に「代表性」があるという根拠のない自信(?)がある。自分が欲しいものは他人も欲しいはずで、自分がわからないことは他人にもわかりにくいはず、という具合に、自分を極めて代表性の高いサンプルだと信じ込んでいるフシがあるのだ(強みだか弱みだかわからないのだが)。従って、自分が毎日仕事上のことで後悔しているということは、他人も同様であると能天気に考えるわけである。
「後悔しない仕事」はどうしたら実現可能だろうか。
毎朝、「今日も後悔しないように仕事しよう」などと念ずるのも悪くはないが、長続きしないだろう。覚悟の定まっていない決心のようなものは、あっという間に忘却の彼方に葬られることになっている。
凡人が後悔しない仕事を持続させるためには具体的なアクションプログラムが必要だが、これはもうこれしかないと確信するものが一つだけあり、それが「早朝出勤」だと考えている。いわゆる「朝飯前」というやつで、これを午前中の仕事に組み込むと後悔の頻度は激減する。
筆者がお付き合いさせていただいている企業の始業時間は、多くの場合10時前後である。従ってこれより前の時間帯にアポイントをとること自体が憚られ、「お休みのところすみませんが」などという文言がメールの文頭に記載されたりするわけである(これの何がおかしいかについては、また別途言及することになるはず)。
もしも、午前/午後で1日が二分されているのであれば、どんなに遅くとも始業は8時だろう。10時などにスタートしたら、ぼやっとしているだけでもう昼飯である。さほど仕事していないはずなので腹が減るわけもないのだが(そもそもこの年になると3食きちんと食べる必要は全くない)、なぜか12時がランチタイムだったりする。これが諸悪の根源である。
中年を実感するのは「早起きがさほど苦痛ではなくなる」ことにある。寝るのにも体力が必要なのだが、その基礎体力、基礎代謝が劇的に悪化するのが中年だ。寝つきが悪くなくても、長時間寝るのが苦痛になってくるはずだ。結果として早起きになる。
若い人からは「仕事熱心な態度」に見えるかもしれないが、たいていのオヤジはそういうつもりで起きてるわけではない(余談だが筆者の父親も40代から50代にかけては、毎朝午前3時に起床していた。「寝ている時間がもったいない、起きていれば儲かる」と豪語していた時期がある)。せっかく早起きしてしまったのなら、さっさと事務所に向かってしまうのが正解である。
ずいぶん前の話だが、ある時これに気がついて、早朝なら座って行けるというメリットもあるだろうなどと考えながら電車に乗ったら、同じようなことを考えているフシのある中年サラリーマンがたくさんいるのにびっくりしたことがある(しかも座れなかった)。始業時間が8時だとしても都心に向かうにはあまりに早い時間帯だったことからすれば、このような「後悔しない方法」を実践している人は、すでにたくさんいることが判明したのである。
朝の10時を「その日に片付けるべきデスクワークをほぼ全部終了させる」締め切り時間にしてしまおう。そして10時に退社しても支障はないくらいにしておけば、それ以降は、飛び込みの案件への対応も含め、相当な余裕を持ってゆったりと作業ができるし、どうでもいい打ち合わせを楽しむこともできる。いずれにしても、その日に終わらせる必要のない仕事しか残っていないはずなので、結果として後悔しないで済む。
筆者も、朝の6時台に事務所に到着している日は仕事上で後悔することはほとんどない。問題は、そのような早朝出勤日を増やせない自分自身のだらしなさにあるのだが。
- 書名
- 会社をつくれば自由になれる
- 出版社
- インプレス/ミシマ社
- 著者名
- 竹田茂
- 単行本
- 232ページ
- 価格
- 1,600円(+税)
- ISBN
- 4295003026
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