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自分らしく愉しく仕事をするための起業

起業する前、将来の不安や迷いは誰にでもあると思います。自分の場合も1年くらい迷い続けましたが、「自分の意思で自分の人生を決めたい」という気持ちが日ごとに強くなった末の決断でした。

起業する前、将来の不安や迷いは誰にでもあると思います。自分の場合も1年くらい迷い続けましたが、「自分の意思で自分の人生を決めたい」という気持ちが日ごとに強くなった末の決断でした。

「起業して正解だった?」と聞かれることがありますが、現時点は「正解だった」と答えます。でも、10年後に「正解だった」と答える自信は、正直なところ今はありません。

約15年間、会社はちっとも大きくなりませんでした。小さな失敗も数々ありましたが、なんとかリカバリーしてきました。その結果、小さくなってもいません。決算書上は、創業からの累積でプラスマイナス・ゼロ。15年の間それなりに生活費も稼ぎ、法人も個人もしっかり納税できたので、最低ラインはクリアしたと思います。でも「老後ための蓄えをしっかり」というところには至っていません。

起業直後の営業と技術(ものづくり)のジレンマ

自分は42歳の時、海外のWeb技術の日本市場への導入とそれに伴う事業開発をしようと起業したわけですが、起業直後に日米のネットバブルが崩壊し、想定していた仕事のほとんどが消えてしまいました。食いつなぐためにスポット的なITコンサルティングやシステム構築の受託作業など、いろいろなことをしました。

サラリーマン時代に営業畑は全く経験がなかったので、新規案件の開拓も思うように進みませんでした。ようやく一つ案件が決まると、そちらの作業に没頭していまい営業がおろそかになります。次の案件まで間が空き貧乏に、その繰り返しでした。

零細なベンチャー企業だからこそ、質の高い商品やサービスを提供しないといけない、その一方で営業もしなければならないというジレンマは想像以上にキツイものがありました。1日16時間、週末も返上して働いて、自分の給料を稼ぐのが精一杯。いわゆる自転車操業の時代でした。

自分との付き合い方を見直す

営業は得意じゃないし、相手の予算に合わせて妥協した提案などはしたくないと考えていました。「とりあえず営業の得意な人を採用してその人に営業活動してもらおう」などと他人事のようになんとなく思っていました。その一方で、「自分の給料を稼ぐのが精一杯な状況でどうやって営業マンの給料を払うの?」「相手の予算に合わせた妥協した労働集約型のものづくりをやって面白いの?」と考えると「営業マンを雇ってもダメかも」と思えてきたり、頭の中は堂々巡りでした。

最終的に「他人事みたいな悩み方をする、そんな自分をまず切り離そう」という結論に行き着きました。自分との付き合い方を変えなければどうにもならない、ということを自覚したんですね。自分の事務所で自分がやりたい仕事を愉しく続けるために「稼ぐ方法を見直し、ビジネス構造を組み立て直せる自分でなければ、会社を経営する資格はない」と真剣に自分を追い込んでいきました。

営業のやり方を追求した結果

営業の苦手な自分がどうやって稼ぎ続けるかを真剣に考えていたとき、インターネットの世界ではヤフーやグーグルのネットの検索連動型広告(クリック保証型課金の広告)が普及し始めていました。それがヒントとなり、成果が出た分だけ課金する(成果報酬型)の情報サービスなら実績や認知度もない当社でもやっていけそうだ、と直感的に思いました。

その頃、ちょうど不動産企業向けのシステム開発の仕事をしていたので、空き時間に「新築マンション検索サイト」をコツコツと半年くらいかけて構築し、掲載料完全無料のサービスサイトを開設しました。

新築マンションの物件情報を掲載し、それを見た一般個人の顧客からマンションの資料請求や内覧希望が入ったら1件ごとに1000円から数千円を課金。毎月末に集計してマンション情報をサイトに出している不動産会社に請求するというシステムでした。

不動産会社にとっては、自社の新築マンションの広告を無料で掲載できて、初期費用ゼロ、掲載料ゼロのノーリスクです。営業が得意じゃない当社でもなんとか展開できそうだと考えたわけですね。開設後、掲載するマンションが1000棟くらいになり順調に行くかと思いました。ところが、リーマンショックで取引先が相次いで倒産という想定外の状況となってしまい、このサービスは3年で閉鎖しました。

その後、成果報酬型のビジネスモデルはそのままに、さらにサービス内容を見直し、不動産売却サイトである「不動産価格.net」を開設し、現在に至っています。

自分らしく愉しく仕事をする

「キツイなぁ、この仕事好きじゃないなぁ」と思いながら仕事をしていると、日に日に仕事の愉しさが感じられなくなってしまい、集中力も未来を考える余裕もなくなってしまいます。自分らしくない状態に陥ってしまいます。

自分がやりたいことは変わらなくても、経営環境は変化し続けています。ネットバブルの崩壊やリーマンショックのような想定外の事態もあります。そういった状況をしっかりと自分の事として考えて、それまでの自分の考え方や価値観を軌道修正し続けられること、これが小規模な会社を経営するうえでのエッセンスではないかと思っています。

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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