例えば、大間のマグロであるとか、英国のコンテストで賞を獲得したウイスキーであるとか、個人が入手しようとしても、価格的にもモノを確保するという面でも、あるいは消費し切れるかなどという面からも、現実的には難しいものがあります。ちゃんとしたバーや寿司屋があるからこそ、一人ひとりがいくばくかのお金を払うことでそれらを楽しむことができるわけです。
バーテンダーや職人の高度な技は当然のこととして、バーや寿司屋の価値は、実は「高い品質のものを店に集まる人たちにシェアしてくれる」に尽きると思っています。高度な技も、これを実現するための一つの要素にすぎません。
バーや寿司屋を営んでいる側は、なんらかの収入があるお客さんに集まってもらい、その収入のいくばくかを店に料金という形でシェアしてもらうことで、生活を成り立たせています。素材そのものだけではなく、技やサービスもその料金の納得材料となります。そして、バーの店主は食事をするときは寿司屋の客でもあり、寿司屋の店主は仕事が終わっての1杯をバーで楽しんだりもします。
このモデル、実は、全ての仕事について言えることだと思います。「42/54」がイメージする小規模で快適なビジネスと生活もまさにこれ。自分の稼ぎのうちのいくばくかを各々が異なる領域で商売を営んでいるあまり遠くない関係の人たちとシェアすることで、その関係者全体にお金が回っていく、というようなイメージです。
一部の人が持ってくる案件にその他大勢がぶら下がっている、という状態(会社組織ではこの性格が強い場合が多い)よりも、はるかに柔軟でロバスト(強靭)なグループとなる可能性があります。
これを実現するためのもう一つのポイントが、「適度なオープン性」です。誰にでも門戸は開かれているけれど、ちょっとした敷居がある、といった感じです。
バーや寿司屋の例に戻りましょう。この店はいいな、また来たいな、と思うのはなぜでしょうか?
それは、提供される商品やサービス、店主の人柄などももちろんなのですが、「客層」というものが大きな役割を果たしています。基本ジェントルな人が集まっている。偉そうにする声のデカいオジサンがいない、悪酔いする輩がいない、そんな客がいたとしても店主がそれとなく抑える、というようなことですね。これができていない店は、たとえ美味いモノがあったとしても、「あのオジサンの我が物顔は見たくないなぁ、、、」と足が遠のいてしまいます。
いいバーや寿司屋では、誰でも店に入れるようにしてあっても、実際には店主が客を選んでいるわけです。いろいろな観点から店の趣旨に賛同してもらえる人だけを何回かかけて篩(ふるい)にかけていきます。その積み重ねが快適な店という「場」につながります。
42/54が目指しているビジネス集団も、これととてもよく似たところがあります。ジェントルでお互いに信頼できる、お互いにリスペクトできる、誰でもジョインできるけれど身勝手なことは許されない、という境界や規範はあいまいだけれど信頼感のあるネットワークです。そんなネットワークの存在を意識しながら、そんなに羽振りは良くないけれど、できる範囲で楽しく生きていけたら、これはとても有難いことでないかと思います。

- 書名
- 会社をつくれば自由になれる
- 出版社
- インプレス/ミシマ社
- 著者名
- 竹田茂
- 単行本
- 232ページ
- 価格
- 1,600円(+税)
- ISBN
- 4295003026
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