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不得手なことを頼めること、ベースフローを作ること

誰にも得手不得手があります。自分でできることと自分でやるべきこと、誰かにお願いすべきことをはっきりさせ、その案件に最適なチームを編成して対応するということが大事だと思います。「会社のベースフローとなる案件があって、その上でアドホックな案件が積み上がる」という形が一つの理想形ですが、そのベースフローとなる案件をどうやって見つけ出し、それを継続性のあるビジネスにするか、ということが42/54的なスモールビジネスでは重要な意味を持ちます。

私は、中途入社ゆえ勤続年数が短く退職金が少ないことが分かっていたので、早期退職支援制度を使って若干の上乗せをして退職しました。新卒で入った最初の会社を辞めた時には、退職金はクルマのローンのボーナス払いにも足りないという金額で貯金等もなく、まったくのゼロからの転職だったことを思えば十分に余裕があると感じていました。

インターネットがあれば、そこで何か仕事があるはずだ、という裏付けのない妙な思い込み(過信に近い)で一人で会社を立ち上げてみたものの、最初からそうそう仕事があるわけではありません。朝、横浜の自宅を自転車で出て恵比寿に借りた事務所に向かい、昼飯を食った後にはちょっとウトウトして、自転車をいじったりしてから、明るいうちに自転車で横浜に戻る、などという「夢のような」時期もありました。

まずは、知人、友人から少しずつ仕事をもらったりするところからがスタートでした。もちろん最初は、仕事を選んだりはしませんでした。私自身は編集系やマネジメント系のスキルはあっても、制作系や開発系のスキルがあるわけではありません。でも、もし仕事がとれたらそれを手伝ってくれる人は、前職からのつながりで大丈夫だと思っていました。その点が不安にかられずに済んだ大きな要因だったように思います。

誰にも得手不得手があります。自分でできることと自分でやるべきこと、誰かにお願いすべきことをはっきりさせ、その案件に最適なチームを編成して対応するということが大事だと思います。

そのうちに、ベタ張り付きを要求されるような仕事、発注側の都合で仕様決定が遅れても納期が変わらないような仕事、といった案件からは距離を置くようになってきました。広告系の制作業務などが典型です。若い人をたくさん雇っているような外注先と同じ感覚で同じことを要求されても、42/54的な一人のスモールビジネスであれば、それはちょっと違うんじゃないの? とも言いたくなります(相手もメンドクサイおじさん、と思うでしょう)。

逆に、人件費や人員の都合で若い人がやっているけれど、実はちょっと荷が勝ちすぎている、というような仕事では経験などを生かすことができます。システム開発のプロジェクトマネージャ(PM)などが該当します。受託した会社のPMとして常駐に近い形で入りますが、仕事の本質は「クライアントと外注との間のファイアウォール」です。クライアントの要望とそれを受けた外注先への指示を多数捌くわけで、クライアントには言うべきことは言うけれどなるべく満足してもらうように、また外注先には気持ちよく苦労してもらう、という感じです。

こういった常駐に近い案件であっても、他の案件もあることをきちんと説明してパラレルな業務遂行であることを納得してもらいます。でも、パラレルゆえにどこかに迷惑がかかる、ということは避けなければなりません。ミーティングの日程調整等では自分なりのプライオリティをはっきりと示します。

私の場合、理想的なのは「会社のベースフローとなる案件があって、その上でアドホックな案件が積み上がる」という形です。常駐型のPMなども、開発期間が終われば契約は終わりですし、そういった案件を常に営業して探し続けるというのは、あまり現実的ではありません。一人の会社であればなおのこと。

ベースフローとなる案件をどうやって見つけ出し、それを継続性のあるビジネスにするか、ということが42/54的なスモールビジネスでは重要な意味を持ちます。その案件は、最初からわかりやすい形で見えているわけではありません。お膳立てされて与えられるものでもありません。小さなとっかかりからなんとか自分の土俵で仕事を進め、この人がいないと困るかも、と思ってもらえるようにする、というのが一つの方法です。

実は、Webの仕事のほかに小さなレストランを始めたのも、Webのベースフロー案件以外のアドホックな案件の代わり、という意味合いがありました。さらに、時期はよくわかりませんが、将来はレストランがベースフローになると良いな、とも考えています。案件は永遠ではありませんので。

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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