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資本金はいくらが妥当か

資本金で重要なのは金額の多寡ではない。重要なのは持株比率と「いつから売上が立つかの見通し」の二つだ。

設立時の資本金は、「ある一定期間、売上がゼロでもなんとか食べていくための費用の総額」と考えればよい。オフィス経費やあなた自身の人件費などの固定費のように、とにかくどんどん出て行くだけの費用を見越してすべて合算した金額になる。

顧客が確定していない(=売上が想定できない)状態で起業することがいかに怖いことかは、資本金を決めるときに実感することになる。なんやかんやで毎月100万円の出費があるとして、資本金が1000万円だとすると、10カ月以内に売上が立たなければその時点でゲームオーバーだ。

あと何ヶ月で資金が底をつくかを現金燃焼率(burn rate)という(本当に燃やすと貨幣損傷等取締法で罰せられるからやめておくように)。バーンレートが高いからダメな会社というわけではないが、零細企業の場合は低いほうがいいに決まっている。

蛇足ながら、「経営でコントロールできるのは支出だけ」である。「売上」と「支出」はセットで語られることが多いので誤解されやすいのだが、この2つの決定的な違いは、売上がコントロール不能なのに対して、後者は自分の意志で操作することができるという点にある。

「いやー、弊社毎月の売上は1000万円を上限としてるんっす」という話は聞いたことがない(なんだか面白い経営のような気もするが)。しかし、支出を抑えるために安い家賃の事務所に引っ越すことは自分の意志でできる。だが、従業員の給与はそう簡単に削るわけにはいかないので、固定的な支出の中でも流動費化しにくい項目になりやすいのが難点だ。従業員の採用に対しては慎重であるべきなのはこれが理由だ(いずれにしても固定費はすべてが流動費化できるようにしておくのが理想ではある)。

さて、「設立した翌月から売上が立つことが決まっている」のであれば、いたずらに資本金を大きくする意味はない。しかし、案外世間はつまらない部分に着目する。それが「資本金が1000万円か、それ以下か」である。商法上も税法上も、この金額にはもはや意味はない(正確に言うと若干の違いはあるが有為な差ではない)。しかしそれでもある年齢以上の人はこの「資本金1000万円」を「その会社が本気の会社なのか、個人事業主の変形なのか」の指標として見ているようだ(年配の爺さんにこの傾向が強いので、彼らに見栄を張りたい場合は資本金1000万円にしといてください)。

ついでに言うと「本店がどこに登記されているか(注:「本社」ではない)についても、例えば東京の場合だと「その住所表示が山手線の内側にあるか否か」を気にしている人(=前述の爺さん)も多い。これも本気度のチェックで使うらしい。中野区や調布市ではダメなのだ。

ただ、もはや「楽天も本社を世田谷に構える時代」だ。この二つはもう昔話だと思っていいだろう。むしろ誰も聞いたことのないような地域に本店登記したほうが「お。どこですかこれ」くらいの話題提供ということになって面白いかも知れない。退職金の大半を「田舎に建築する事務所兼自宅」につぎ込んで起業なんてのは実にスマートでかっこいい。そういうことを考える余裕がなかった自分の起業時の反省でもある。

というわけで、資本金で重要なのは金額の多寡ではない。重要なのは持株比率と「いつから売上が立つかの見通し」の二つだ。言うまでもなく株主は「自分だけにしておく」を前提としよう。

 

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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