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朝令暮改は正義の戦略

カネになるのならどんどん引き受けよう。過去の自分の発言に囚われることにはまったく意味がない。

おそらく筆者が起業してから周りのスタッフに一番繰り返し発したセリフが「俺そんなこと言ったっけ?」だろう。たいへんカッコ悪い。

しかし、言ったのである。

本人は病的なまでに覚えていない。周りのスタッフはやりにくいだろうなあと同情はする。しかしこれは戦術的に正しいと信じている。スタッフにある指示を出したあとに、より良いアイデアが浮かべば、そちらに上書きしてしまえばいい。上書きしてしまえば過去に言ったことを覚えておく理由がない。カラダが「先日のその指示、忘れていいよ」と言っているのだ。それが冒頭の「俺、そんなこと言ったっけ?」というセリフになっている。結果オーライでいいのである。

朝令暮改という言葉がある。本来は法令がすぐに変更されてしまいなかなか一定しないことを指すが、朝言ったこととは違うことをその日の夕方には言っているという意味で使うケースが多いだろう。あまり良い意味で使われることはない(但し、「法令が遵守の対象なのか」については、ここに名著『「法令順守」が日本を滅ぼす』(郷原 信郎 著 新潮新書)があるのでぜひ一読されたし)。しかし(少々偉そうな発言になるけど)経営ってのは朝令暮改のことではないかとさえ思う。

起業してしばらくはクライアントから頼まれれば何でもやる。調査集計やグループディスカッションの司会などというおよそ門外漢の仕事さえ、カネがもらえるのならやる。あれこれ受注していると「俺はこれをやるために起業したのだ」などというルールに自分を縛りつける余裕がなくなる。「来週はこれをやろう」という計画も、明日もし新しいオーダーがくればどうでもいい予定に成り下がる。決意表明に意味がないので重みもない。過去の決断の重量感に縛られるのはマズい、過去のテーゼに未来の自分を縛るのは馬鹿馬鹿しいと感じるべきなのだ。

さらに余計な事を言えば、なんやかんやで5年くらい会社をやっていると「ある種の成功のパターン」の原型(prototype)みたいなものが見えてくるはずなので、妙な心配をせず、来るもの拒まずで、但し誠意を持って仕事していれば大丈夫、なんとかなる。

さらについでに言えば「それ、俺の仕事かなあ」と思って引き受けた仕事も(何年後かはわからないが)「その仕事をやったことがある」という経験がものすごく貴重な財産になる。1と2には1の差しかない(1回経験した仕事をもう1回やるのはとても簡単)が、ゼロと1の間には無限大の差がある。「やったことないことをやる」のはゼロを1にしてしまうことを意味する。「来るもの拒まず」とはそういう意味で貴重な経験・財産になり、少し先の将来に自分がやることになっている仕事の「シーズ(種)」のひとつになっていることに気がつくはずだ。

 

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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