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いつ起業するのが正解か

サラリーマンにはいつでも今のゲームから離脱できる権利がある。そして、何歳で起業するかと、どういう業務内容で起業するかは常に「パッケージ」で考える必要がある。

同じ「野球」ではあるが、高校野球(甲子園での全国高等学校野球選手権大会)とプロ野球の決定的な違いは、高校野球の「トーナメントという制度の残酷さと面白さ」にあると思う。甲子園でのトーナメントに出場する高校の数をXとすると、合計試合数はX-1なので(引き分け再試合等がある場合を除く)、純粋なトーナメント形式の場合、仮に50校が出場すれば、私たちは、大会期間中の一回戦から決勝戦までのどこかのタイミングで49チームが泣き崩れるのを目撃することになる(優勝校が感極まって泣くのは意味が違うのでとりあえず除外)。総当たりにすると甲子園に出場できるチーム数を極端に絞る必要が出てきてしまうという事情もあると思われるが、この制度が高校野球を俄然面白くドラマチックなものにしているのは確かだろう。

さて、「大企業サラリーマンの昇進・昇格」はこの「全国高等学校野球選手権大会」と非常に良く似ている。社長になることがゴールだとすると、たった一人を除いては必ずどこかのタイミングで敗れることが「確約」された出世競争ゲームに見立てることができる。ルールに透明性・客観性・中立性が存在せず、敗者復活戦がごく少ない確率で発生するのは、高校野球とは異なる。しかしこれは後味の悪い特徴かもしれない。

高校野球は「泣き崩れて終わり」だが、サラリーマンの場合は、本人に「どのタイミングでこのゲームから離脱して、新しいゲーム(転職または起業など)に参加するか」についての裁量権があるところが救いだ。但し(ここが一番重要なところだが)最後に残った一人(=社長)でさえ、いつかは新しいゲームに参加しなければならなくなってしまった、というのがこれからの仕事社会の特徴だろう。理由はいろいろあるが、端的に言えば「社長を退任した後の時間が想像を絶するほど長くなってしまった」ということに尽きる。

筆者が起業した直後にもっとも多かった質問が「なぜ辞めたの?」だった。しかし、これは筆者に限らず(かつ当たり前であまり面白くないのだが)退職した人であれば「理由はそんなにシンプルなものではない」と皆が口を揃えて言うだろう。ただ、個人的にひとつだけ強く確信していたのは「自分がこの会社を定年退職した後も起業せざるを得ないのは間違いない」ということだった。当時から問題視されていた「国民年金・厚生年金制度の破綻」が直接のきっかけではあるが、父親が経営者(製材業)だったことも遠因としてはあるだろうと思われる。

そしてその次に「今(41歳)起業する」と「定年退職した後(60歳)に起業する」を天秤にかけ、どちらがリスクが大きいかと考えた。体力、勉強に対する意欲、人脈、などを総合的に勘案すればどう考えても今のほうが(それはそれでリスクはあるが)多少リスクが低いという結論に達した。今と定年後でどっちが自分を「高く」売れるだろう、という計算をしたといってもいい。なので「なぜ辞めたの?」に対するシンプルな答えを用意するとすれば「今、起業しちゃったほうがリスクが低いと判断したから」ということになる。多少後知恵っぽいし、カッコ良すぎるような気がしないでもないが、これが一番実感に近い。

というわけで、私たちにとって重要なのは「どのタイミングで新しいゲームに参加するのがトクなのか」と「どういうゲームの内容にするか」になる。定年後に作れる会社はおそらくコンサルティング業務がメインにならざるを得ないだろうが、40代そこそこの社長ならけっこう体力を使う仕事もこなせる可能性が高い。いずれにしても、何歳で起業するかは新しく設立する会社の業務内容とパッケージで考える必要がある。または、やりたいことがはっきりしているときに、それを始めるのにはどんな時期・年齢が好都合か、という方向から検討するのも良いだろう。

個々に抱えている課題・問題が異なる以上、「適切なタイミング」なるものを一般論として展開するのは難しい。しかしそれを承知の上で言えば、「ある程度の規模の会社でそこそこ長い期間勉強させていただき、人脈を築いて、脂の乗り切ったころに自分の会社を作って飛び出す」のが一番リスクが低いと思うのだ。それが30代後半から40代前半ではないか、ピンポイントで言えば42歳だ、というのが私たちの仮説である。

「できればこのまま今の会社で勤務したいと思っていたが、ひょっとしたら起業したほうがいいのかもしれないと考え始めた人」に多少の参考になる情報を提供したい、というのがこのサイトの明確なコンセプトでもある。若い頃から起業を目指している人にも参考になる情報が出現する可能性がないとは言えないが、私たちの読者対象ではない。

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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