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個人事業主の限界とプロジェクト・ベースの仕事

これからの仕事はすべてがプロジェクト・ベースで動くことになるだろう。特徴は「プロジェクトは組織の形式に優先する」ということだ。すなわちプロジェクトを遂行するために必要なスタッフは組織を超えて招集されることになる。これは「一般的な会社イメージ」とは非常に相性が悪いことに留意したい。

個人事業主の場合、なんらかの知的財産の貸与や投資等によらず、役務の提供に対して対価を得るという業務スタイルであれば、(仕事の種類にもよるが)身を粉にして働いたとしても年間3000万円程度の売上が限界だろう(但し健康問題にまで発展しかねない激務になると予想できる)。

加えて個人事業主は、「経費」の適用範囲が法人に比べて制約があり、所得税(=累進課税の対象)が課せられる範囲が大きくなりがちなので、税務対策上も年間売上が1000万円を超えたあたりから通常の「法人化」を検討したほうが有利なはずだ。従って、(サラリーマン時代の)年収が1000万円を超えるであろう中年起業の場合は、個人事業主という選択肢はそもそも存在しないと考えたほうがよい(余談だが、法人税が累進課税の対象になっていないのは不思議といえば不思議である)。

その上で、それなりの固定費(外部から観測したときに「会社」らしく見えるための経費、例えば事務所経費など)を支払ってもそこその内部留保を確保できるようにするとなると、創業後5年後以内に年間売上1億円前後を目指す必要があると考えておきたい。「小商いを営んでいる」と言えるのは年商1億円前後のことを指すと(筆者は)考える。

1億円の売上げを自分一人の力だけで達成することはできない。協力者が必要だ。ただしそれが(いわゆる)正社員である必要はない。「雇用の創出こそ経営者の(社会に対する)義務だ」などというつまらぬ言説に惑わされる必要はない。これは会社の規模を大きくすることが良いことだ、という高度成長期の幻影に過ぎない。

「これ以上は(一人では)もう限界」というところまで社員の採用は控えよう。身軽な体質(=固定費を流動費化しやすい体質)にしておくことは会社が持続するための大きな秘訣の一つだ。協力者の実態はフリーエージェントまたは他の会社、そして場合によっては「家族」になる。

これは請け負う仕事のスタイルとも関係してくるが、仕事はすべて「プロジェクト・ベース」で管理したほうがよい。プロジェクト(project)とは、何らかの目的を達成するための計画(企画)とそれを遂行する手段やプロセスとして必要になる様々な資本のことだ。プロジェクトは目的達成後にさらにバージョンアップして継続することもあるが、基本的には目的の達成イコール終了になる。

プロジェクトは組織に優先する。つまりそのプロジェクトを遂行するために必要なスタッフは組織を超えて招集される(当然クライアントもプロジェクトメンバーだ)。これは一般的な会社イメージとは非常に相性が悪い(何万人もの社員を抱える大企業でさえ、特別なプロジェクトの時にはスタッフを社内だけで調達するのは難しいことが多い)。

プロジェクトは最低1年、長ければ5年程度をメドにして計画を作る。あるものは短期間で終了し、あるものは延々と続くということを含め、経営的には期間中にそれなりの数のプロジェクトを複数走らせることになる。

これは異なる直径の複数の皿回し(Plate spinning)と同じだ。大きな皿(プロジェクト)はそれなりのジャイロ効果が期待できるので、ゆっくりではあるが長時間回り続ける。かと思いきや高速でスピンしつつ、あっというまにその回転を終了させてしまうものもあるだろう。

社長は、複数の「お皿」を見守りつつ適切にドライブさせる総合プロデューサとして君臨する。昨今流行りつつあるといわれる「ホラクラシー:holacracy」がアメーバ型組織による比較的デモクラティックなワークスタイルを標榜しているようだが、こういうモノはうまく持続しない。プロデューサが全権を掌握し、品質を管理し統括するプロジェクトでなければ目指すゴールには到達しない(ホラクラシー自身が密かにヒエラルキーの登場を期待しているところがある)。

ところでこの「プロジェクト型の仕事の進め方」に非常に近いのがジャズ・ミュージシャンだ。プロデューサに該当する人物(プレイヤーでもあるケースが多い)がある思惑や企画のもとにスタッフを招集する。様々なプレイヤーの過去の実績を参考にしつつ、今度は「こんな音で、こんな雰囲気で」ということで「プロジェクト」を企てることになる。これに呼応して、あるいは共感したプレイヤーが招集され、レコーディング後にツアーで稼ぐというケースが一般的だ。プロジェクトメンバーは流動的だから、しばらく同じメンバーで過ごすことも少なくないが、次のツアーにはきっと別のメンバーで臨むことになるだろう。プレイヤー同士は共感を通じた信頼関係で結ばれてはいるが雇用関係があるわけではない。また、招集される側のプレイヤーがプロデューサとして自身の事業を立ち上げることも稀ではない。

いずれにしても、プロデューサの役割はただひとつ。そのプロジェクトに投下した資本をきちんと回収(recoup)し、利益を上げることだ。プロジェクトをスタートさせるべくチーミング(チームを組成)するときに、招集するスタッフはその時点でベストだと考える人だけに声をかける。先方の都合でそれが叶わないとき、あるいは条件があわない、プロジェクトに共感してもらえない、というときは別のスタッフで妥協することになる。一方、フリーエージェントは常に自分の「好きで得意なこと」を(作品などのカタチで)あちこちに吹聴しておく必要がある。

ともあれ「社長とは、複数のプロジェクトマネージャ兼プロデューサである」というごく当たり前のことをあたらめて強調しただけのハナシではある。

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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