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「客であること」が仕事になる時代

労働(仕事)の中核にあるものは作業ではなく感情である。従って、様々な仕事が「自動化」されていくと、最後は感情だけが残る(剥き出しになる)ということになる。感情労働それ自体が仕事そのものになる時代になるだろう。

SF作家・筒井康隆が1971年12月に小説サンデー毎日にて発表した漫画『客(きゃく)』は、すべての作業が自動化され「とてつもない便利」を手に入れてしまった未来の家族の話だ。

核家族化が極端に進行し、そもそも人に会う必要がなくなってしまい、自宅に友人どころか営業マンさえ訪ねてくることもなくなってしまった未来のある日、「お客さん」がやってきた。家族は「おお。ウチにお客さんが来た!」と涙を流しながら狂喜乱舞する。お客さんは飲んで食べて騒ぎ、かつ家族が大切にしていた家宝を破壊しつつも家族ともども楽しい時間を過ごす。そして帰り際にはその家族から「謝礼」を受け取って去っていく。お客さんは「仕事」であり、「お客様という職業」だったのである。

一方、古典落語に「あくび指南」(YouTubeの動画へ)という噺がある。ヒマで何もすることがない二人連れが「あくびでも習いに行こうか」と出かけていくという他愛もない話しだ(あくびは季節によって微妙に違うという師匠の指摘はなかなか面白い)。

この2つの例は将来の私たちの「仕事」がどうなっていく可能性があるかを示唆していて、実に興味深い。ひとつは「感情を直接操作する作業それ自体が仕事の中核になる」ということであり、もうひとつは「遊びと仕事の区別がなくなる」ということだ。

自分自身の(説明できない)強い気持ち(感情=ある種の「色気」に通じるように思う)を深く掘り下げていく行為が「遊び=好き」ということであり、これがたまたま他人の役に立つことがある(=仕事)ということと、他人の感情を励起状態にする(具体的には「笑顔」になることが多いと思われる)ことが「仕事」としては残り続ける、ということになる。

日本マクドナルドが「スマイル0円」を復活させたという(東洋経済ONLINEの記事へ)。彼らがどのような意図でこれを実施しているのか詳細はよくわからないが、「笑顔はタダ」と言っているようにしか見えないのは誤解を招きやすいのではないか。ゼロなのは仕入原価であって、本来スマイル自体の価値は青天井だ。

読者のみなさんも、今までの人生の中で「とても価格はつけられない笑顔」に何度も出会っているであろう。そしてその笑顔には、計り知れない「優しさ」が溢れていたことを知っている。その優しさの源泉が何だったのかということと、仕事とは何か、ということには大きな共通点があるように思う。

そしてさらに重要なことは「実は昔から、そして今も」これに近い、ということだ。市場拡大主義における「仕事」は、どうしても作業それ自体の品質あるいは作業量に対する対価(=カネ)が議論の中核になってしまい、それが主役であるように見える。

しかし、本当の隠れた主役はおそらく「感情労働」である。仮に天然の笑顔を完全にシミュレートできるアンドロイドが完成したとしても、人の笑顔にはかなわない。アンドロイドの笑顔は「コストが合わない」だろうということが容易に想像できるからだ。

 

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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