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営業部隊は即刻解散せよ

「営業」とはコミュニケーションの方法、あるいはもっと大げさに言えばその企業の風土や文化みたいなものであって「職種」ではない。労働がある種の専門性に対する報酬の提供だとするなら、定義が曖昧でそのケイパビリティ(capability)がはっきりしない「営業」という言葉は使わないほうがいい。しかし「営業が職種を表すわけではない」という言説は、分からない人にはおそらく永遠に受け入れられることはないだろう。

中小・零細企業であっても、組織図チャートなどを公開している会社がある。そこでは開発部、技術部、総務部などと並んで、営業部が「縦の組織」を構成する部署のひとつとして位置付けられていることが多い。しかし営業とは、本来その組織に「横たわる」コミュニケーション文化のことを指すのではないだろうか。

つまり、どの部署に所属していようと必要なビジネスに対するメンタリティのことを「営業」と言うべきで、その機能を単独で切り出して部署として機能させられるのは大企業だけだろう。大企業の場合はブランドエクイティとマーケティングパワーが営業的成果について影響が大きく、1件あたりの成約金額も大きいので、ROI(投資対効果)の悪い営業を独立した部署として存在させても十分回収できるのだ。

そもそも、営業部が営業活動に費やす時間は驚くほど短い。調査などと称して書店で時間をつぶしたり、どうでもいいメールをチェックするため、あるいは「いいね!」ボタンを押して交友関係を深めるべく喫茶店に立ち寄ったり、遠くに行くことだけが目的になっている出張を繰り返していたりしているのが実態だ。

こういった営業マンの側から見た社長というのは、売上げと直結するわけがない行動に惜しみなく給与を支払ってくれる間抜けな好々爺に過ぎない。ましてや、営業が2人でつるんで外出などしていたら、床屋政談でもやってくれていればまだマシで、頼んでもいないのに「(うちの)社長は何がダメか」を真剣に議論してくれていたりする。余計なお世話なのである。

中小企業経営者の大きな関心のひとつが「営業力の強化だ」というのは嘘である。「売上げが上がればいいのであって、実は営業力などどうでもいい」が本音だ。営業しないと売れないようなものを作ってしまった自分自身への反省が「営業力の強化」という言葉に現れているのであって、「営業力を強化したい」は「ウチのサービスはそもそも商品力が弱い」ことの裏返しに過ぎない。

加えて、「営業力の強化と売上げにはストレートな因果関係がある」と無邪気に信じている経営者は、たぶん少し頭が弱い可能性が高い。零細企業にとって営業部門は必要悪ですらない。不要なのだ。営業は社長一人で良い。最初の「飛び込み」と最後の「成約」が営業としての社長のもっとも重要な任務だ。

最近、NHKで放送している(らしい)CG版の「サンダーバード」は見てないのでよくわからないが、筆者が子供のころ(1970年前後)に興奮して見ていたサンダーバードは、大半の問題(事件や事故)は1号(偵察機)と2号(輸送機)だけで解決していた(3、4号にはかなり特殊な任務が割り当てられていたのと、5号の活躍はビジュアル的に表現しにくいという弱点があった)。

ごくシンプルに言うと、1号のミッションは「課題発見」であり、2号は「その課題の解決」だ。2号のおなか(コンテナ)からまだ見ぬ工作機械のお化けみたいな武器(道具?)が登場するのがこのテレビドラマの白眉なのだが、中小企業経営のアナロジーで言うと、1号と2号は社長自身のミッションに他ならず、2号のコンテナから登場するのが「社員」だと考えれば判りやすい。

息を呑んで見守っているのに、コンテナの中からぞろぞろ営業マンが出現するようでは、視聴者は大きな落胆とともにテレビのスイッチをOFFにしてしまうことだろう。登場してほしいのは一癖も二癖もある開発部や技術部等の専門職のはずである。

営業部スタッフを活用するためには、ミッションを「販売という行為以外のもの」に変更し部署名を変えてしまうのが正しい。例えば、「企画本部」などと称して1人あたり月に企画書を30セット程度「量産」することを目的とする部署にしてみよう。その企画書を持参し提案することが仕事となり、これは事実上の営業的な行為と見なすことができるし、顧客から見た時に何をしてくれるヒトなのかも非常に判りやすい。

また、この部署のスタッフはおそろしく企画書を作ることが上手になるだろうから、「企画書作成のプロフェッショナル」という、単価を吊り上げる口実になる専門性が発生する。営業部に10人のスタッフがいるとしたら、彼らが秘めているであろうポテンシャルを部署名にして、10個の部署を作った上で、営業部自体は解散してしまうのが正解だ。課題の種類ごとに様々な道具が入れ替わり立ち替わり登場するサンダーバード2号のコンテナと同様である。そして、それぞれの道具の価値(査定価格=給与)は「出番×単価」で計測可能になる。

筆者の会社には、「2号」に該当する強力なパートナーがたまたま存在する。これが非常に心強い。このおかげで筆者自身は、「自分は1号として極めて優秀であり1号業務に特化すればよいのだ」という自己暗示をかけていれば良く、だいぶラクをさせていただいている。

また、コンテナから登場する武器は、弊社の場合フリーエージェントが該当するが、10年以上経営していると、登場する武器は「だいたいいつも同じ人」になることが多い。ミュージシャンが「自分が主宰するツアーに同行してほしいベーシストはいつも彼」というハナシと同じである。彼ら・彼女たちには大変感謝しているが、自分自身も含め経時劣化していくのは否めないので、たまに若い、未知数のスタッフをテストで利用させていただいたりすることがある。

これから起業する人には、「法人格」および「税理士」というパートナーが付き添ってくれることになっているが、これに加えて「2号」が見つかると、猛烈に楽しく仕事ができる、ということを最後に付け加えておく。

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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