企業経営における「保険」の位置づけや機能について、多くの人は「経営者に万一のことがあった時のための備え」くらいの認識なのではなかろうか? 実はこれ、大いなる認識不足である。
以下、主に企業向け保険のエキスパートである「ミスターX」氏へのインタビューの抜粋である。長時間のインタビューで内容は多岐にわたったが、企業経営に保険がどのように役立つか、というテーマに絞ってまとめた。
■実はいろいろある保険の機能
生命保険には、「保障」(いわゆる万が一の時のための)は当然のこととして、「事業承継・相続」「与信力の改善」「節税」「退職金」「利益の平準化」など、企業経営で発生するさまざまな問題を解決できる機能がある。例えば「節税」というのは、手元に資金を残すことが目的。手元に資金を温存するために生命保険の機能を使う、これはかなり一般的な手法だ。
保険というものをシンプルに説明すると、次のようなことになる。ここに1億円の現金があるとして、この現金をこのまま置いておくと税金がかかってしまう。必ず課税対象になり、手元に残らない。保険というものは、この現金を「保険証券という紙」にしてしまうものだ。「保険に入る」と保険会社のほうから漏れなく領収書が送られてくる。飲み代と同じで、全額損金で落とせる経費となる。
法人であれば、持っていると課税対象になる現金は何かに使わなければならない。車に使うのか、備品購入するのか、あるいは交際費で使うのか。そういうものにしか現金は使えないのか、保険にも使えるではないか、ということなのだ。
■簿外資産としてお金が貯まっていく仕組み
保険料を経費化するということは、領収書の金額を経費に算入して税金を圧縮するだけではない。普通の領収書と機能が違うのは、保険証券には実は「換金性もある」という点だ。簡単にいうと「この領収書を裏返しにすると、解約返戻金ということで現金が返ってくる」というのが保険の仕組みである。
保険証券と解約返戻金には、さらにカラクリがある。解約するまで解約返戻金という現金が貯まっているわけだが、これは“含み資産”という言葉が相応しい。含み資産なので帳簿の外、簿外資産なのである。
解約返戻金というのは、その名のとおり解約して初めて現金になる。保険は、解約しなければ、万が一のための保証に過ぎないが、解約すると現金になって帳簿に載るわけだ。逆に解約しなければ、含み資産としてお金が貯まっていく状態を作り出すことができるのだ。
■商売には浮き沈みがあるものだが、、、。
このように、保険は解約返戻金という形で簿外資産を増やすための手段である、と考えると冒頭で列挙した保険の機能のうち「節税」「与信力の改善」「退職金」(会社の金を個人に流すにはもう一手間必要。これは相続なども同様)などについてはイメージできると思う。それでは次に、「利益の平準化」を例にとろう。
今、オリンピックに向かって非常に公共事業が盛んになっているが、公共事業の仕事を獲りたい建築業、土木業などは、どんな会社でも仕事を請けられるというわけではない。入札には条件があって、黒字の会社でなければならなかったりする。つまり、その期が赤字であるがために、獲れる仕事、獲りたい仕事が獲得できないということになる。こういった期による利益のアップダウンをなだらかにしたいという経営者は多い。
儲かっている時は保険を経費にして簿外資産として貯めておく、赤字の時は解約返戻金を損失に充当するなど、保険を使えば経常利益を平準化、安定化させることが可能だ。
ここでもう一つ重要なのが法人税のトレンドである。かつて、法人税が50%などという時代があったが、今は35%。今後はおそらく30%くらいに下がると言われている。法人税はダウントレンドにあるのだとすれば、納税はなるべく先送りしたいと考えるのが普通の経営者だ。
例えば、不動産業界などで大きな売買が成立して、当期のみの瞬間風速的な利益が出てしまったが、来期はそんなアテはない、というようなケース。こういうときに、解約時の返戻金のある保険に加入することで保険料を経費として計上して当期の利益を圧縮、税率が下がったところで解約すれば、過去の利益を高税率の対象とすることなく上手く先送りすることができる。
このように、保険のさまざまな機能をよく理解して使うことは、企業の経営にとって数多くのメリットがある。実際の保険商品については、企業の規模や状況、利用目的などによって最適なものは異なる。大枠を把握したうえで、専門家の助言を受けることが不可欠だろう。
- 書名
- 会社をつくれば自由になれる
- 出版社
- インプレス/ミシマ社
- 著者名
- 竹田茂
- 単行本
- 232ページ
- 価格
- 1,600円(+税)
- ISBN
- 4295003026
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