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人間中心設計から日本人中心設計へ

“教養主義”は、本来の人間の生きかたを取り戻す方法として定期的に出現する。不況になると、出版社が「言語(日本語)、歴史、教育」のいずれかのテーマの書籍を数多く発行しようとする動きと連動することも多い。一方、“カネ”に関する本はいつの時代でもそこそこ売れるが、教養主義の最大の弱点はそのカネと縁遠いことにある。しかし、これからもそうだろうか。Erik StoltermanのDX(digital transformation)の前提になっているのはデジタル・テクノロジーである。これは、過去に教養主義が流行した時代には実在しなかった。

1)使い勝手を作るための道具や前提を再定義すべき時代の到来
  ・明治から今までの150年をいったんカッコで括れ
  ・優れたUIは“体験が拡張される実感”を提供しつつ自分の存在感を稀薄(ambient)にする

2)言葉から自動車まで“加工貿易”しか経験のない国が日本である
  ・絶望的なくらい貧乏くさい国であることを自覚しよう
  ・残心(ざんしん)、無尽(むじん)などの古臭さに日本らしさがある
  ・隻手音声(せきしゅのおんじょう)とプライバシー(+パーソナルデータ)

3)会議室の言葉から台所の言葉へ
  ・言語を変えると考え方も変わる
  ・UIのデザイナーは言語のプロフェッショナルであることが前提
  ・味覚を表現する言葉が400を超えている、のは自慢してもいいかも

4)おもてなしは日本のお家芸ではない
  ・おもてなしとサービスは何が違うか

5)生活を改めて発見する
  ・本来、遊びと仕事に区別はつかない。
  ・全ては単なる、しかしかけがえのない“生活”である

6)キャッシュレスだから“進化”しているのかどうかは微妙
  ・現金が持つ匿名性という能力を外圧で簡単に放棄する国民性はそろそろ放棄してもいい

7)作る人よりは(社会的課題を)消滅させる人が求められている
  ・使い易い駐車場のデザインではなく、駐車場が不要な社会のデザインを
  ・情報は収集するのではなく捨てる能力が問われている
  ・テレワークを(本社からではなく)個人の視点から眺めるとどう見えるか
  ・高品質なサービスではなく高品質な消費(能力)が問われる時代に(作る人と使う人の融合)
  ・視点を縦横無尽に移動させることができる能力

8)起業することが重要なのではなく、裁量権を確保し続けることが重要
  ・裁量権は、制約がないと実現するのは困難
  ・大切な主役は隠れていることが多い

9)文化経済学の時代が(再度)やってきた
  ・過度の期待はできないが、2025年の大阪万博は一つのチャンス

10)自己肯定感が重視される時代に
  ・コンサルタントよりはプロデューサの方が“美しい”
  ・美意識、美学、美的センスなどへのこだわりが過度に評価されるだろう
  ・論理(統計的処理・確率計算など)より生理(感覚)
  ・日本人医師の最大の特徴は“データを勝手に補正してしまう”能力(父性でなく母性)にある。

11)日本はビッグデータと決別しよう
  ・ビッグデータは単なる消費データ
  ・量で勝負するのは米国と中国に任せよう
  ・質的拡大で勝負しよう

12)教養は指先に宿る
  ・職人とは知識人である
  ・高品質とは繰り返し使えることを指す
  ・優れた芸術には繰り返しの鑑賞に耐えられる複雑さがある

以上は、特定非営利活動法人「人間中心設計推進機構」が11月30日に実施するセミナー「Human Centered Design」の意味を考える  時代に合わせて“変わるもの”と“変わらないもの”」 において、筆者が話題提供する予定のアジェンダである。これらの詳細については、順次この「42/54」で記事化していく予定。

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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