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自分をマネジメントするために「会社」は不可欠

たとえ社長一人の会社であっても、法人と社長個人は別人格であり、会社という枠組みが社長をマネジメントするのです。会社と社長の距離感は、一人の会社であれば極めて近いものの、完全に一致することはありません。この完全に一致しない部分がマネジメントであり、健全な生活のために必要な機能なのです。

別エントリ(「個人事業主の限界とプロジェクト・ベースの仕事」)にもあるように、税金面を考えたら個人事業主ではなく法人を設立して社長になった方が良いのは間違いありません。

法人であることのメリットは様々ありますし、これまでにもいくつか書いてきました。でも、実は一つ大事なことが抜けていました。それは「自分をマネジメントするには会社が不可欠」ということです。

たとえ社長一人の会社であっても、法人と社長個人は別人格であり、会社という枠組みが社長をマネジメントするのです。やりたい仕事(時には不本意な仕事も)をし、給料を好きに設定し、必要と思われるものには経費を使う、といったことの一つひとつが、会社のマネジメントの結果であり、それを唯一の社員であり社長でもある自分が実行している、という状態です。

会社と社長の距離感は、一人の会社であれば極めて近いものの、完全に一致することはありません。この完全に一致しない部分がマネジメントであり、健全な生活のために必要な機能なのです。

自分自身をマネジメントするには、自分とは別の冷静な目が必要です。その部分を会社が担います。例えば何らかの案件があったとして、それを請けるかどうか、あるいはどうかかわっていくのか、それは会社としてどうなのか、実際に動くことになる社長のモチベーションは継続するか、他の案件に影響はないか、利益につながるのか種まきなのか、といったことについて、自分の好き嫌いなどとは離れて、会社としての判断を下すことが大事です。

一人で自分の役務を提供するような仕事であれば「身を粉にしても年間3000万円が限界だろう」という論にはまったく異論がありません。私の実感とも一致しています。そして「一人で3000万円」を継続するとおそらくカラダがおかしくなります(睡眠4時間で8カ月休みなし、などという状態が続いたりしますので)。

しかし、サラリーマン時代の年収を考えてみれば、多くの場合、3000万円未満であっても、生きていくには十分な金額であることが分かります。これは給料ではないので、もろもろの経費を使った後にいくら残るか、という話になりますが、会社と社長は別人格ではあっても、その距離は極めて近いというところがミソです。

社長の収入ではなく会社の売上としての3000万円を使ってどういうビジネスを展開していくのか、ということを会社として考えます。社長にどれだけ給料を出すか、外注費をどのくらいにするか、先行投資をどうするか、諸経費をどうするか、などは会社としての判断です。社長は、給料の範囲で自分のお金の使い方を考えるのです。でも、会社と社長の距離は極めて近いので「給料」や「小遣い」といった感覚にはなりません(場合によっては、給料は家に全部入れて小遣いをもらうことになるのかもしれませんが)。

もちろん、売上の総額が分かっているので、使えるお金の制約については実感を伴って理解していますし、その額に納得もしています。

もう一つ言えることは、「倒産防止共済」や「がん保険」のような方法で、将来に備えるためにも会社が必要だということです。これらの方策は納税の最適化(平たく言うと「節税」)の一環でもあるのですが、取引先が倒産して困るとか、がんになってしまったとか、本来の使途で使うというよりはむしろ小さな会社の経営者の「退職金」という側面が強いのです。

こういう類のお金は会社で損金算入できることが強い継続意欲につながります。流動性はありませんので、お金に困ったときにすぐに下して使うという訳にはいきません。これを個人の意思だけで何年も積み重ねていくことは、ほぼ不可能ではないかと思います。会社あればこその将来への備えであり、会社が社長をマネジメントしている良い例だと思います。

書名
会社をつくれば自由になれる
出版社
インプレス/ミシマ社
著者名
竹田茂
単行本
232ページ
価格
1,600円(+税)
ISBN
4295003026
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